役所広司の演技が最高!正義感が強くて人懐っこく直情的で暴力的な元ヤクザの三上を見事に演じきっている。社会になかなか馴染めずどうしても暴力を抑えられないのは幼い頃に母に捨てられ施設で育ち極道として人生の半分を刑務所で過ごしたゆえか。藻掻き苦しむ三上の姿にどうにか上手くいってくれと願うばかりだったよ。介護施設で三上が感情を抑えて怒の表情から笑顔に変貌したシーンはゾッとした。最後、すばらしき世界とは…。
以下、ネタバレあり!!!
生活困窮者を取り巻く世界がリアルで、漫画「健康で文化的な最低限度の生活」を思い出した。生活保護を受けるのがどれだけ大変なのか。生活保護から抜け出すことがどれだけ困難なのか。普通に生活してると知らないことばかりなんだよな…。
三上の周りの人たち(TVディレクター・津乃田、ケースワーカー・井口、スーパーの店長・松本、身元引受人の弁護士・庄司夫妻、組長の妻など)がみんないい人なのが心温まるし救われる。まあここまでいい人だらけだとちょっとリアルじゃないかもだけど、周りの人の優しさや人との繋がりで少しづつ前に進んでいく三上が嬉しかった。
馬鹿正直な正義感と暴力に縛られている三上を、「自分のことを大事に」「逃げていいんだ」「もっといい加減で」と諭す周りの人たち。言ってることは確かに間違ってない。社会や人間関係との折り合いって大事だからね。でもほんとにそれでいいのか?
介護施設のシーン、障害のある同僚をいじめやゆする介護士たちに暴力的な感情を抑えて笑顔でこたえた三上の行為は成長なのか亡失なのか。その同僚から花をもらって涙する三上。どうにもリアルすぎて悲しい。
最後、まさか死んでしまうとは。衝撃すぎたよ。高血圧の伏線はあったけどそんなまさかだ。せっかく何かもかもがいい方に転がってたのになー。元嫁とも飯食う約束してたのに…。突然の死もあの笑顔の報いだったのかな…。
正直、この物語が「すばらしき世界」だったのかどうかわからない。三上にとってそうだと言い切れるのかどうか。西川監督からの皮肉ともとれなくもないしな。モヤモヤするわー。
すばらしき世界(2021)
監督:西川美和
出演:役所広司, 仲野太賀, 橋爪功, 梶芽衣子, 六角精児, 北村有起哉